2Dアクション好きのゲーム日記

ゲームについて書く。2Dアクション多め。

『天穂のサクナヒメ』レビュー:苦労して育てた米ほど美味い。稲作×アクションRPGの調和が魅せる成長物語

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「米は力だ」

 

 

ゲーム概要

メーカー:えーでるわいす / マーベラス / XSEED Games

プラットフォーム:Nintendo Switch / PS4 / Steam

プレイ人数:1人

初リリース日:2020年11月11日

価格:4,980円(税別)

公式サイト:https://www.marv.jp/special/game/sakuna/

個人的に、遊びや物語を通して一貫したテーマを感じさせるゲームは面白い、という考えを持っています。

本作においては、

丁寧な描写を重ねる心あたたかな物語、

稲作とアクションRPGが調和したゲームサイクル、

という2つの主たる要素が、「成長」というテーマの下に綺麗にまとまっているように感じました。

というわけで、今回はそのあたりのお話を軸として、本作の魅力をお伝えできればと思いまうす。

 

ちなみに余談でありますが、本作を開発した同人ゲームサークル『えーでるわいす』が以前作った『アスタブリード』というアクションシューティングも筆者のオススメタイトルです。

『アスタブリード』レビュー:超爽快! カジュアルに楽しめるロボットアクションシューティング - 2Dアクション好きのゲーム日記

こちらも是非に。

 

ぐうたら女神と人間たちの、心あたたかな成長物語

人々が生きる麓の世と、神々が住まう頂の世

これら2つの世からなる、ヤナトと呼ばれる国がありました。

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武神タケリビと豊穣神トヨハナの子として生まれたサクナヒメは、両親が残した財産を食いつぶすぐうたら女神。

自堕落な毎日を送るサクナでしたが、頂の世に人間たちが迷い込んだことをきっかけにひと悶着起こし、主神カムヒツキへの献上品を台無しにしてしまいます。

その責を問われたサクナは、罰として、迷い込んだ人間たちと共に鬼島の調査を命じられます。

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かくして、ぐうたら女神と人間たちによる、鬼が支配する島での共同生活が始まるのでした。

 

ゲーム中では、最初は身勝手でまとまりのない神と人たちが、共同生活の中で手を取り合い、苦難を乗り越え成長していく様子が描かれます。

この、絆を深め成長する過程の描写が非常に丁寧。

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作中幾度となく行われる食事での会話劇を筆頭に、拠点となる「我が家」でのイベントが豊富で、世界観の掘り下げから何気ない日常まで、様々な出来事が心あたたかな筆致で描かれます。

遊んでいると、本当にもう「我が家」と呼ぶにふさわしい安心感が得られるのですよね。

そうしたゆるやかでぬくもりのある時間の積み重ねによってキャラへの愛着がわくからこそ、彼らが成長する姿にはより強く胸を打たれます。

終盤には、要素だけ取ってみると"熱い"と言うべき演出が仕込まれているのですが、実際にゲームで触れてみると「あったけぇなぁ……」という想いがじんわりと胸の内に広がりました。

この気持ちをぜひ実際にプレイして味わってほしいものです。

 

稲作×アクションRPG 

武神と豊穣神の子であるところのサクナヒメは、米を育てることによって強くなります。

というわけで、本作には稲作とアクションRPGが融合した独特のゲームサイクルがあり、ここも成長あるいは育成が一つのテーマとして構成されています。

 

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まずは朝、田んぼの様子を見るところから一日がスタート。

春は田植え、夏は水と肥料の調整、秋は稲刈り、冬は田起こしなど、季節に合わせた農作業を行います。

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農作業を終えた後は狩りへ出ます。

狩りは2Dアクションパートとなっており、マップからステージを選んで出発。

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ステージによってはちょっとした探索要素やギミックもありますが、メインとなるのは敵とのバトルと素材の収集

時間経過で夜になると敵が強くなるので、夕暮れ時には素材を持って我が家に帰宅します。

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家では集めた素材を使い、装備品の作成や強化、夕食の支度、肥料の仕込みなどを行って翌日に備えます。

 

朝は農作業(米=サクナの育成)

昼は狩り(育成した力の実践+素材の収集)

夜は帰宅して夕食と装備の作成強化(素材を使った育成)

この一日ごとの小さなサイクルを繰り返しながら、一年を通じた米づくりという大きなサイクルに取り組んでいくわけですが、ここで行う工程の全てがサクナの成長に繋がっています。

そうして強くなることでまた新たなステージへ狩りに出られるようになり、物語も進行していく。

このような育成を軸としたゲームサイクルによって稲作とアクションRPGが見事な調和を果たし、物語におけるサクナの成長をさらに演出してくれます。

ちなみにゲーム内では1つの季節が3日、1日は現実時間で10分前後で過ぎ去っていくので、1年過ごすだけで多大なプレイ時間を要したりはしません。ご安心を。

 

しかしそうはいっても「米づくり面倒くさそう」と思う人がいることでしょう。

わかる。

正直自分も同じ不安を持っていました。

それに対し実際にプレイして出した答えはこうです。

 

米づくりは確かに面倒くさい。

だが全く退屈せず、刺激に満ちた体験である。

 

田んぼという名の遊び場にずぶずぶとハマる

プレイヤーが農家でなければ、最初は米づくりの右も左もわからない状態からスタートすることでしょう。私もそうでした。

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とりあえず最初は、米づくりに詳しい田右衛門の指示に従って作業を進めます。

まずは田んぼを耕して、苗を植え、水を張り、肥料を撒いて、秋になったら稲刈り稲架掛け脱穀籾摺り……

むむ、どうやらこのゲーム、本当に一から十まで米づくりの工程を行う様子。 それも結構手作業です。めんどくさ。

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言われた通りの作業をこなして一年が終わると、収穫したお米の力でサクナがレベルアップ。そしてすぐに次の年がやってきます。

するとどうでしょう。農作業経験値を得たサクナが新たなスキル<農技>を覚えたことで、昨年より僅かに作業効率が上がっているではないですか。

作業が楽になって喜んでいると、今度は蔵から農書が見つかります。

読むと、そこには農作業に役立つ知識が記されており、これを参考に水の量やらなんやらを工夫すれば、より多くのお米が得られるといいます。当然やるっきゃないでしょう。

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米が増えると、また作業量も増える……と思いきや、ここで便利な農具が登場します。

農具のおかげで、より作業が効率化。お米も増える。ついでにサクナも強くなる。うれしい。

すると今度は、余った米で物々交換をしないかと都の使者から持ち掛けられます。商品のリストを見ると、なんとそこには新たな農書が!

農書の知識を得てお米の品質を上げるために、まずは蓄えを増やす。米の収穫量アップを目指しここまでで培った能力をフル活用して……

と、ここまで来る頃にはもう、プレイヤーは米づくりの魅力にずぶずぶにハマっています。ようこそ米の世界へ。

 

多少簡略化して書きましたが、こんな感じで本作、知識0の状態から米づくりを習慣として身に馴染ませるためのチュートリアル・導線引きが恐ろしく丁寧に計算されています。

必要な時に必要な分だけ、段階的に説明を入れるのでわかりやすく、新しい要素を出してくるタイミング調整も絶妙。

そろそろ次のステップに進みたいなと思った頃に新たな選択肢が提示され、時折挟まる単純作業も、どんどん増える農具やスキルで、効率化による数値のインフレを楽しめる。

進むにつれてより効率的になり、お米はより多量に、より高品質に。

プレイヤーの欲望を掻き立ててゲームを遊ばせるのがとにかく上手いのです。

言うなれば、ゲームがプレイヤーを育てている状態。しかもプレイヤーは自分で成長していると思い込める。

 

農作業に親しむにつれ見えてくるのが、その奥深さ。

例えば植える苗の間隔や、夏場の水量や中干しの時間、籾摺りをどの程度行うかといった細かなアクションの積み重ねが、米の品質や収穫量に影響を与えます。

この辺りのノウハウはあえて説明が無かったりぼかされている部分もあるのですが、それによってプレイヤーには試行錯誤の余地が残されており、米づくりにハマったプレイヤーの格好の遊び場になっています。

 

米には6つのステータスがあり、それぞれがサクナのステータスに直結。

自分が伸ばしたいステータスに合わせて、田んぼにあれこれ手を入れていくわけです。

しかし、田んぼもやはり自然の一部。

害虫が出たり雑草が生えたり、それらの予防対策として塩を入れすぎると逆に塩害になってしまったりと、なかなか思う通りにはいかず、理想の米を作るには試行錯誤が必要です。

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米の成長は収穫の際に初めてサクナへ反映されます。

一年間でどう米と向き合ったか、その成果がここに表れるわけです。

遊んでいると、この結果発表の瞬間が実に待ち遠しいのですよね。

害虫や悪天候の苦難を乗り越え、良いお米になるよう手間暇をかけた分だけ、それが報われたときの達成感はひとしおです。

ちなみに上のスクショは狙ったとおりに「美=運気」のステータスを伸ばせてめちゃくちゃご満悦の表情で撮ったときのやつですね。

 

米づくりは原則、ゲームサイクルにおいて"やらなくてはいけない作業"であり、そこには単純作業も含まれます。

面倒だと感じることもあります。

しかし、恐ろしくよくできたチュートリアルと効率化サイクルによって、プレイヤーは自然と「もっと美味しいお米を大量に作りたい……」という欲望の渦に飲み込まれ、気付けば奥深い米づくりの世界にずぶずぶ足をハマらせることになります。

理想の米の味を知った日には、米を育てるための苦労が楽しくて仕方なくなることでしょう。

 

ちなみに米づくりに馴染めなかった場合も、本作は戦闘難易度と稲作難易度を個別に変更できるので、そちらで調整することもできます。

また、最悪作業は放っておいても田右衛門が全部代わりにやってくれるので、多少米の品質は落ちますが、進行に支障はありません。

 

爽快感抜群のふっとばしアクション

米づくりによって得た力の実践の場であるアクションパートは、爽快感重視のつくり。

しかし、決して簡単というわけではありません。

基本的に多勢が相手で、ぼんやりしているとタコ殴りにされる上、スキが少なく攻めづらい相手もいます。

 

では、どこが爽快なのか?

攻撃を当てた時のヒットストップやSE、羽衣移動の軽快さといった触り心地の気持ちよさに加え、コンボの組み立ての奥深さなども良いところなのですが、肝となるのはふっとばしアクション

いくつかの攻撃には当てた敵をふっとばす効果があり、ふっとんだ敵はぶつかった他の敵も巻き込んでいくので、敵の数が多い分、それはもう気持ちよく衝撃の連鎖が繋がります。

羽衣を使って軽快に回り込むような動きもできるので、これを活かして立ち回れば、敵をまとめてふっとばせるような位置取りに誘導することも可能。

羽衣で敵の背後を取り、打ち上げ攻撃からの空中コンボで体力を削った後、フィニッシュで敵の群れにふっとばして一網打尽!  なんてのが上手く決まったときにはもうたまりません。

 

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米づくりによるサクナの強化は、ステータスの増強だけでなく新たなアクションスキル<武技>の習得という形でも現れます。

スキルはふっとばし技や投げ技も多く、これを使いこなせると戦闘がグッと楽に、そして華やかになります。どんどん敵を蹴散らしてやりましょう。

次々覚える技を試したり、新しいコンボを考えるのも楽しい。

 

 

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また、狩りで集めた素材を使った装備品の作成や強化も、戦闘を優位に進める上で役立つ要素。

クリア後のやりこみ要素はもっぱらこれです。

個人的に、強化したアビリティの付け替えが手軽にできるのが使いやすくて良いと思いましたね。

 

序盤は手探りで難しく感じることもありますが、適正レベルを守り、基本の立ち回りに慣れてきたらそう難しくはなく、クリア後の裏ボスを除けばガチガチのアクションを求められることはないように感じました。

といっても、気を抜いてると死ぬときは死ぬので、緊張感がないわけでは決してありません。

プレイヤーのアクションスキルの成長を促すというよりは、コンボ&ふっとばしによる爽快感をつまみに、米づくりや装備の強化によって得た力を見せつける場として楽しむ趣が強め。

そして、このように育てた力を存分に振るう場所があるからこそ、育成のための試行錯誤もより楽しくなっていきます。

 

細かな不満、懸念点

ここまでに挙げた長所に比べると取るに足らぬ問題ですが、一応遊んでいて引っかかったところを3点ほど挙げます。

  • 死ぬとエリアの最初まで戻されるのですが、セーブを挟んでいないと経過時間ごと素材の取得状況も巻き戻されるのがつらく感じることがありました。経過時間と獲得素材そのままで位置だけ戻る方が、死んでも残るものがあってアクションRPGとしては良かったような。
  • 素材の獲得条件がわかりづらい、アビリティ強化の操作周りなど、UIにも不便を感じるところがありました。
  • ストーリークリアまでのゲームサイクルは非常にうまくできている一方で、やり込み要素は単調さを感じる部分もありました。ちなみに、クリアタイムは35時間ほどで、その後のやり込みを含めると50時間程度でした。

また、 ゲームサイクルとして米づくりは"やらなくてはならない作業"で、そこに「ステージ攻略中でも、日が暮れたら途中で離脱しなくてはならない状況に陥ることがある」という1日の時間制限の要素も加わるため、どうしてもアクション部分だけやりたい人にとっては煩わしく感じる可能性はあります。

 

総評

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毎日の農作業、狩りでの素材集め、装備の作成に、戦闘の経験値。

ゲーム中の全ての工程が、サクナの成長に繋がっています。

そうして育てた力を存分に振るう、爽快なアクション性。

本作は稲作とアクションRPGが調和したゲームサイクルの中に、育てる楽しさ、そして育てた力を見せつける楽しさがたっぷり詰まっています。

そして、そうしたアクションRPGとしての育成要素が、丁寧に描かれたサクナヒメの成長物語にさらなる深みを与え、このゲームでしか味わえない魅力を生み出しています。

本稿では詳しく触れませんでしたが、四季にうつろう日本風景を密度たっぷりに描く美しいグラフィック、和の魂を揺さぶるBGMなども実に魅力的でした。

個人的には今年遊んだタイトルの中でも1, 2を争うほどハマったタイトルなので、ちょっとでも興味のある人には是非とも遊んでもらいたいところ。

オススメです。強く。