2Dアクション好きのゲーム日記

ゲームについて書く。2Dアクション多め。

『九魂の久遠』レビュー:サクッと遊べて気が付いたら15周やってた。よみがえりネコアクション

 

 

概要

メーカー:インティ・クリエイツ

プラットフォーム:Nintendo Switch / PS5 / PS4 / Xbox Series X|S / Xbox One / Steam

初リリース日:2024/5/30

価格:4,280円(税込)[DL版] / 5,280円(税込)[パッケージ版]

公式サイト:九魂の久遠(くこんのクオン)│ 公式サイト

ネコには9つの命がある、という言い伝えがあります。
本作はそんな言い伝えを元に、冥界へ堕ちたネコが現世の飼い主に会うために奮闘する様を描く、2Dアクションゲームです。

ディレクターおよびシナリオは、『ブラスターマスター ゼロ』シリーズでもディレクターを務めた西沢智氏。
パッケージ限定版に付属の設定資料集によると、西沢D自身も飼っていたネコを亡くしており、「9つの命があるというくらいだし、帰ってきてくれないかなぁ」と考えていたのが企画のきっかけになったとか。

そんな本作、アクションゲームとしてはカジュアルで遊びやすい面もありつつ、周回して強化を重ねながら複数あるエンディングを回収したり、あえて高難度モードに挑戦するといった遊びも備えた作品になっています。
個人的には結構好きだし何度も遊んで楽しんだのですが……ボリュームや遊びの底の浅さに難があり、評価の難しい作品でもあるという印象です。

 

ストーリー

―――ネコんだ。

ゲームを開始してまず最初に表示されるのがこの主人公"クオン"が横たわる姿という、衝撃のオープニング。
いきなりネコが死んでるところから始まるゲームってあんまりない気がする。

作中では「死んだ」という事実だけが示され、死因は明らかにされていません。

ともかく、クオンは飼い主の元へ帰るため、妖魔の蔓延る冥府の道を突き進んでいくことになります。
クオンの前に立ちふさがるのは、クオンと同じく冥府に堕ち、妖魔獣人と化した者たち。

果たしてクオンは、彼らを打ち破り現世に帰ることはできるのか。
彼らのように妖魔獣人と化すことなく、ネコの心を保つことはできるのか―――

 

切り絵風のグラフィック、に見せかけた美麗なドット絵

本作で目を引くのはやはり、この切り絵風のグラフィック。
冥界の不気味さ、妖しくも美しい雰囲気がよく表れているアートスタイルが見所ですが……これ、よく見るとドット絵なんですよね。

画面がアップになるシーンではわかりやすいですが、通常時はSwitch携帯モード(720p)とかだとドットが潰れてしまう、というくらい細かな描き込みとなっています。
ドット絵職人のインティ・クリエイツ作品の中でも、特に高解像度な作品でしょう。

ドットの表現が紙のざらつきに似た表現にもなっており、『ヨッシーアイランド』や『星のカービィ3』などのグラフィック表現手法に近いものも感じます。

 

クオンを放置したときのアニメーションも多くのバリエーションが用意されており、ネコらしい可愛らしさが存分に表現されています。

 

独自性のあるシステムと、地に足ついたレベルデザイン

ただのネコであるクオンは、弱い。
初期状態の幼魔形態」では攻撃手段を持たず、敵の攻撃にも一撃で死んでしまいます。

そんなクオンが危機を乗り越える方法は、「シャドウスルー」という無敵ダッシュ能力。
ありとあらゆるダメージ源をすり抜けることができます。

とはいえこれもデフォルトではスタミナ消費が大きく、強化しなければ心許ない性能。
あえなく攻撃に触れて死んでしまうと、9つの命を使ってその場で復活すると共に新たな能力を得ることができ、これを「アニマリヴァイブ」と言います。

アニマリヴァイブは動物にちなんだ多くの種類があり、攻撃スキルから防御スキル、機動力を上げるものまでバリエーション豊か。
死ぬ度にランダムなものが発現しますが、敵の種類によって発現しやすい能力が異なっています。

ただし、5回目の死―――伍魂のアニマリヴァイブで目覚めるのは、「人」の力。
より戦闘に特化した、獣人型の「業魔形態」へと変身してしまいます。
シャドウスルーが使えなくなり、狭い場所への避難もできなくなってしまうのと引き換えに、攻撃性能が上がり、敵の攻撃にもある程度耐えられるようになります。

道中で得たポイントを捧げれば業魔形態への変身に抗うことも可能ですが、9回目の死では強制的に「九魂逢魔形態」へと成り果ててしまいます。

九魂逢魔形態は最終形態にふさわしい圧倒的な強さ。
ここまでくればそう簡単にはやられませんが、無敵というわけではなく、体力を使い果たしたらいよいよゲームオーバーなので最後まで注意が必要です。

 

ボス戦に関しては、形態によって攻略法が異なります。
ネコの姿で戦う場合、ダッシュで攻撃をすり抜けることでヒスイゲージを溜め、必殺の一撃を放つことができます。

一方、獣人化している場合はダッシュによるシャドウスルーができないので、普通に攻撃して戦うことになります。
獣人形態は体力が多く死ににくいものの、攻撃性能に関しては能力の引きによって仕上がりにムラがあるため、幼魔形態の方が戦いやすいなんてこともザラにあります。
シンプルにゴリ押しできるようなビルドができると強さを実感しやすいのですが……

 

ゲームシステムの都合上、初見殺し的なギミックもあるものの、基本的にはよく観察して慎重に進めば対処できるようになっています。
幼魔形態でもクリアできるようにするためか、ボスの攻撃はインティ・クリエイツのアクションゲームにしてはシンプルかつスローテンポ。

独自性のあるシステムを備えつつも、操作形態やレベルデザインは堅実丁寧。
カジュアル寄りで地に足ついた設計のアクションとなっています。

ちなみに本作、若干の探索要素や収集・強化要素もありますが、基本的にはステージをまっすぐ進んでクリアしていく形式です。
一応ざっくりしたマップ画面もありますが、作りは結構シンプルですね。

 

選べる難易度、豊富な強化要素

ゲーム開始後、簡単なチュートリアルステージを抜けたら本編開始前に難易度選択が行われます。
難易度は以下の3種類。

一度決めたら、ゲームオーバー時に一時的に永魂モードに下げる以外、途中で変更はできません。
エンディング分岐には関係ないようなので、お好みに合わせて選択可能です。

 

強化要素も豊富。
探索で手に入るアイテムやポイントを消費して能力をアンロックしていく形式です。

ダッシュ性能や体力UPといったクオンの基礎能力向上や、アニマリヴァイブの強化、マップの解放など内容は様々。
アンロックした後も任意でON/OFF切り替えできるので、気分に合わせて難易度調整することも可能です。

取得したアイテムや解放した強化は次の周回にも引き継がれるので、強化を重ねるたび周回もどんどん楽になり、サクサク進めてエンディング回収が捗っていきます。

 

そんな感じで難易度を幅広く調整可能な本作ですが、特に効果の大きいのが体力UPの強化。
体力を1~2個増やしておくだけでも格段に死ににくくなります。
私の場合は基本的に反魂モードでプレイしていましたが、強化を活用すれば初見でもベストエンドに到達できました。

一方、九魂モードの無強化でベストエンドを目指すとなると結構難しくなります。
アクションの操作の要求レベルはそこまでテクニカルではないものの、ゲームを通してミスできない緊張感があり、カービィの高難度ボスラッシュをやるときとかの感覚に近いものがありました。

 

シンプルで予測可能なストーリー、しかし声優の熱演光る

肝心のストーリーですが、マルチエンドは大半がバッドエンドで、色んな種類のバッドエンドが見れるというマニアックな構成。
正直なところ内容自体もあらすじから予想可能な範囲を超えないものが多く、周回のごほうびとしてはやや物足りないかも。

どちらかというと、面白さを感じられたのは道中のシナリオや声優の演技。

ステージ内の大きな結晶に触れると、強化用のポイントを得ると同時に生前のクオンと飼い主"ツクモ"の回想が見られます。
この回想が、ソファーで爪とぎをして叱られたり、高いエサに手を付けないのを残念がられたり、ずり落ちないような抱え方を模索したりといった、ごくくだらない日常を切り取った内容で実に心温まります。

CV:夏吉ゆうこによるおふざけに興じる際のはっちゃけた演技も小気味よく、微笑ましい情景が目に浮かびます。

 

道中立ちはだかるボスたちもわりと個性的なメンツが揃っていますが、中でもライバル的立ち位置である犬の妖魔獣人"ロック"のクールな立ち姿から繰り出される陽気な語り口のギャップはインパクト大。
CV:佐藤元の熱演も光っており、特にゲーム後半の会話シーンの迫力は圧巻。
少ない出番で抜群の存在感を放っています。

その他のキャラではウサギの妖魔獣人"アリス"も、明らかな虐待の痕跡があるにも関わらず主人への盲目的な愛を語る姿が印象的でした。

 

いろいろ不満な点

不満点を挙げるとすれば、周回前提のボリューム感。
初回クリアは4時間、慣れると1〜2時間程度なのでコンプ目指して10周しても20時間程度、というのが良いところであり難点でもあります。

1周の短さは周回してるとちょうどよく感じますが、正直なところ初回クリア時の拍子抜け感は否めませんでした。
この手のゲームとしては短すぎるとも思いませんが、同社タイトルの『ガンヴォルト鎖環』や『ドラゴンMFD』より高額な4,280円という価格を思うと少し物足りなくはあります。

ボリュームというより、体験の密度の問題かもしれませんが……
先述の通りアクション難易度はあまり高くなく、基本的に無敵ダッシュで全部なんとかなってしまう作りなので、1周クリアした時点でもある程度ゲームの底が見えてしまう感触があるのですよね。

設定資料集では元々はDL専売タイトルとして開発されており、製品版の後半のステージだけだったのが、後にパッケージありのタイトルに変更され前半のステージが追加されたのだとか。
色々と裏で事情があったことが窺い知れます。

 

その他だと、一部の強化アイテムの取得方法がわかりにくいのも困ったところ。
周回して集めないといけないものもあるので、コンプを狙う上で結構面倒だったり。

 

アニマリヴァイブにも使いにくくて逆に攻略が難しくなるものがあり、そういうものが発現してしまうとプレイにストレスがかかってきます。
ダッシュですり抜けられなくなり敵や地形と衝突してしまうヘラジカが特に厄介。
そもそも幼魔形態だと攻撃スキルが発現しても攻撃力が足りなくて大して役に立たないことも多い、という問題もあります。

ヒスイゲージを消費して攻撃を自動回避するカゲロウも、初回プレイ時に発現したときはゲージがなかなか溜まらないので勝てもしないが負けもしない状態で戦闘がダラダラ続くことがあり、攻略の助けにはなっていても面白さには繋がっていないところがありました。

画面左上に敵がいる時にゲージ類のUIが隠れてしまい、とっさにダッシュできるかわからない時があるのも困りました。

 

総評

インティ・クリエイツ作品としてはカジュアル寄りな本作。
永魂モードや強化要素もあるため、アクションが苦手でネコちゃん目当てにプレイしても詰みはしないと思われます。

独自性のあるシステムは本作ならではの魅力を打ち出せており、ネコと獣人で2度楽しめる構成になっています。
アクションの手触りもよく、1周が短めでサクッと遊べることもあり、私はなんだかんだで15周もやっていました。
切り絵風のグラフィックや声優の名演なども見所。

ただ、アクションの奥深さや歯応えを求める人にはやや物足りない部分もあるかもしれません。
特に縛りを入れなければそんなに難しくないゲームなので、腕に覚えのある人は最初から九魂モードで挑むのもいいかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

以下、軽いネタバレ込みの内容です。
主にはゲームシステム的なネタバレであり具体的なストーリーの言及は控えめですが、見たくない人は要注意。

 

 

 

ネタバレトーク①:エンディング分岐条件

やたらバッドエンドのバリエーションが豊富な本作ですが、エンディング分岐条件としては「ラスボスを幼魔形態で倒す」ことでベストエンド、それ以外は獣人形態でラスボスを倒し、道中回収した回想の数で分岐するようです。
検証はできていませんが、思い出の品を集めていると良いエンディングに必要な回想の数が緩和されるというような情報も見かけたことがあります。

すぐに思いつくグッドエンド条件がそのまま正解なのは助かるところですね。
他のエンディング分岐条件に関してゲーム中で具体的な説明はありませんが、「現世に戻りたい理由を覚えているか」ということが繰り返し問われるので、察せられない範囲ということもない気がします。

ちなみに回収したエンディングの数はセーブファイル選択画面の左下にある色のついた星の数で確認可能です。
星の上に書いてある数字は周回数。

 

ネタバレトーク②:隠し演出の話

こちらも十分検証していないのでネットの情報ベースですが、「全てのエンディングを見た状態で、全てのボス・中ボスを九魂逢魔形態で倒す」ことでラスボス戦前の会話イベントが特殊なものに変化します。
これがメタ要素を含むちょっとドキッとする内容のもので、軽いジャンプスケアもあるので苦手な人は要注意。

普段ユーザーが散々「インティ・クリエイツは人の心が無い」だの言っているのに対し、「お前らだってそれを楽しんでるんだろうが!」と返してくるかのような切れ味のイベントになっており、個人的にはこういう説教めいたものはあまり好きではないんですが、私も普段からインティ・クリエイツに好き放題言ってるので今回はお互い様かな……