「2DアクションのX<きょくげん>を、見せてやる。」
このキャッチコピーを最初見た時は、「これはまた随分大きく出たな」と思うと同時に、期待も大きく膨らませていました。
そんな高くそびえ上がったハードルを見事に飛び越えた2Dアクション大傑作の魅力を、細かく紹介していきたいと思います。
ゲーム概要
メーカー:インティ・クリエイツ
プラットフォーム:Nintendo Switch / PS4 / Xbox One / Steam
ジャンル:アクション
プレイ人数:1人
初リリース日:2019/9/26
価格:3818円(税別)[パッケージ版] / 1815円(税別)[DL版]
白き鋼鉄のX(イクス) THE OUT OF GUNVOLT│公式サイト
『白き鋼鉄のX』(読み:イクス)は『蒼き雷霆ガンヴォルト』シリーズのサブ主人公“アキュラ”を単独主人公に据えたスピンアウト作品。
『ガンヴォルト』本編のレビュー記事はこちら。
『蒼き雷霆ガンヴォルト ストライカーパック』レビュー:初心者から上級者まで。ロックマンの精神を新時代に導くスタイリッシュ異能力アクション! - 2Dアクション好きのゲーム日記
本編シリーズでのアキュラは、空中を駆け抜けるスタイリッシュなアクションが好評を博したキャラクターでした。
今作は各システムをシンプルなものに見直しつつ、主人公を一人に絞ることでアキュラのアクション性をより洗練させた内容になっています。
本レビューでは一応、『ガンヴォルト』を知らない人向けの説明も入れていくので、上記レビュー記事と一部内容が重なるところがありますが、ご了承ください。
舞台は、異能力者が支配するディストピア未来世界
人類の大半が、異能の力“セプティマ”を持つ新人類“セプティマホルダー”へと進化を遂げた時代。セプティマを持たない旧人類“マイナーズ”は、人類進化推進機構“スメラギ”によって見つかり次第殺処分される運命にあった。
“白き鋼鉄のX”と呼ばれる謎の少年“アキュラ”は、希望の歌姫“RoRo”を伴い、ある目的のためスメラギと戦っていた。そんな中、アキュラはマイナーズの少女“コハク”とその仲間たちに出会う―――
という、ディストピアな未来世界を舞台に、迫害された弱者を守る救世主として戦う物語。世界設定やアキュラのキャラクター性が少し変わったことで、『ロックマンゼロ』に近い雰囲気も出てきており、ほろ苦くも熱いストーリーを堪能できます。
本編シリーズの特徴であった、ステージ攻略と同時進行のライブノベルは廃止。アクションに集中できるようになった反面、全体的なテキスト量は減少しています。
特に、戦闘中にやたら濃い会話劇を繰り広げていた本編シリーズに比べると、各ボスのキャラクター描写は薄味になった印象は否めません。みんないいキャラしてるだけに戦闘前会話のみなのはちょっと勿体ない。
一方で、拠点でのトークルームは本作でも健在。ステージの合間に、マイナーズの子供達とのほのぼのとした日常で心を癒せます。
全体的に、アクションの邪魔はせず、しかし単なるフレーバーにとどまらない程度に力を入れる、というようなテキスト配分に落ち着いています。
それもあって正直、自分はあまりストーリーに期待していなかったのですが……実際プレイしてみると良い意味で予想を裏切られました。あまり細かくは語りませんが、本筋のストーリーがよく練られていて、本編のアキュラくんを知っている人こそ特に唸らされる構成になっています。
本作はあくまで外伝であり、ストーリーもこれ単体でも楽しめるものになっています。ですが、世界観やキャラクターに惹かれて本作の購入を検討している方は、できれば本編シリーズ作品を先に遊んでおくことをオススメします。
爽快感と歯応えを追求したスタイリッシュアクション
アキュラの基本操作は、ジャンプとショットにダッシュ、壁蹴りを備えた『ロックマンX』から続く伝統のスタイル。
特徴的なのは、空中を高速で駆け抜ける“ブリッツダッシュ”と、ダッシュ体当たりによるロックオンシステム。
白き鋼鉄のX デモ映像 #NintendoSwitch pic.twitter.com/0KoFgWvnXe
— 紅茶 (@tea_creates) 2021年9月4日
ブリッツダッシュはスピードも飛距離も抜群で、非常に爽快!
画面左下の“ブリッツ”ゲージを消費しますが、ブリッツは敵や地形にぶつかってバウンドすれば回復するので、それを利用すれば連続で飛行可能。難しく感じるかもしれませんが、適当に動かしていても勝手にバウンドして案外いい感じにスタイリッシュになります。
ブリッツダッシュは単に飛ぶのが楽しいだけでなく、体当たりによってぶつかった敵をロックオンすることができます。ロックオン中は攻撃が強化・必中するようになり、敵を瞬殺可能!
この、高速ダッシュでギュンギュン空を飛び、敵にガンガン体当たりとロックオンショットをかまして次々撃破して進むのが本当に楽しいんですよね。
アクションゲームの評価軸の一つに「動かしているだけで楽しい」というものがあると思いますが、その点において本作はずば抜けた魅力を持っています。
あんまり素早いのでアクション慣れしている人でも最初はピーキーに感じると思いますが、操作レスポンスは極めて良好・快適なので、慣れてくると自由自在に空を駆けることができます。
今作ではダッシュの合間に出せるホバーの時間制限がなくなり、また空中で何度でもON/OFF可能になったことで、前作『ガンヴォルト爪』より空中制御もしやすくなりました。
気づいた頃には、ハイスピードでスタイリッシュなアクションに病みつきになってしまいます。
アクションに慣れないうちも、無敵のバリア“カゲロウ”が初心者をサポート。大抵の攻撃は被弾してもカゲロウが自動発動して無効化してくれます。
カゲロウ発動時はブリッツを消費し、ゲージが空の状態ではダメージを受けてしまいます。しかしブリッツは下方向2回入力でも即座に全快できるので、とりあえず下を連打していればずっと無敵状態でいられます。
電気攻撃には効かないという弱点もあるものの、それを差し引いても反則級の救済要素。
また、ミスしてもこまめに設置されたリトライマーカーから無限にリトライ可能。
さらに、低確率でヒロインRoRoの持つセプティマ“電子の謡精<サイバーディーヴァ>”の力が覚醒すれば、その場で復活させてくれます。BGMがRoRoの歌に変化し、パワーアップして再び立ち上がる様は、演出としても非常に熱い!
もちろんこれらの救済要素は、アビリティ設定でOFFにすることも可能。 『ガンヴォルト』シリーズの魅力である、初心者から上級者まで幅広く楽しめる工夫は、今作でも健在です。
圧倒的な機動力と攻撃性能、そして無敵のカゲロウ。2Dアクションの主人公としてここまでハイスペックなキャラクターもそうはいないでしょう。
そしてステージ構成も、そんなアキュラの爽快なアクションを存分に楽しめるよう上手く調整されています。
『ガンヴォルト爪』では狭く入り組んだ地形で隙間を縫うように進んでいく場面も多かったのですが、今作のステージは全体的に空間が広く、気持ちよく飛行して進むことができます。
トラップ地帯を高速ダッシュで切り抜けたり、空中に配置された敵を乗り継いで高所を目指したりと、仕掛けも楽しいものがたくさん。
序盤はカゲロウのおかげもあってわりと簡単なのですが、中盤以降は穴やトゲも増えてきて一筋縄ではいかなくなります。特に、空中で被弾するとカゲロウ発動でブリッツが切れ、ダッシュができなくなってそのまま落下死……なんてことも。
序盤で練習させつつ、操作に慣れてきた中盤で難易度を上げ、終盤でさらに高い壁を用意する……という、ハイスペックな主人公に合わせてプレイヤーを成長させていくレベルデザインが実に見事。
ブリッツの初期値が「3」なのに対してカゲロウで「2」消費する調整も絶妙で、空中はもちろん、地上でも連続被弾はダメージに繋がるので油断は大敵。
とはいえ、ステージ中には極端に詰まるような仕掛けはあまり無く、主に壁となって立ちはだかるのはボス敵になります。
強敵ぞろいの異能力者との戦い
ステージの最奥には、スメラギが送り込んだセプティマホルダー“翼戦士”がボスとして待ち受けています。重力操作や分身、雷撃など、それぞれのセプティマ能力を活かした戦法をとり、どれも強敵揃い。
こちらの機動力が高い分、敵も普通のアクションゲームなら避けられないような苛烈な攻撃をガンガン飛ばしてきます。中には無敵のカゲロウを貫通する攻撃もあり、よく観察して攻略法を練る必要があります。
そして体力を1/3まで削ると発動する、強力なスペシャルスキル!
発動時に挿入されるカットインが大変カッコよく、スキル自体もダイナミックで非常に盛り上がります。
あまりにもアキュラが強すぎた前作『ガンヴォルト爪』に比べ、カゲロウのブリッツ消費量増加に加えヒーリングスキルがなくなったこともあり、難易度はやや上がった印象です。
終盤は特にカゲロウ貫通技が多く、中々の高難度。
クリア後やDLCでは、更に歯応え抜群の強化ボスも登場します。
しかしここにも救済要素が。ボスを倒すと、ボスのセプティマを疑似再現したEXウェポンが使用可能に。
これまた『ロックマン』よろしく敵によって有利不利の相性があり、弱点を突けば大ダメージを与えられるのでかなり戦闘が楽になります。結構一方的な展開になることもあるので、頼るかどうかは自分の腕前と相談して決めましょう。
弱点武器やカゲロウに頼らず正面から戦う場合、全ての攻撃を完璧に避けるのは至難の技ですが、それを不可能にさせないのがアキュラというキャラクター。
超高速のブリッツダッシュを駆使して激しい戦いを制した際には、なかなかの爽快感と達成感が得られます。
システムはスリム化するも、熱いスコアアタックは健在
お助け要素はまだあり、アビリティを解放すればアキュラの能力をさらに強化することができます。
本編シリーズではステージクリア時に獲得できる素材やお金を集めて装備品を購入していましたが、今作では素材収集は撤廃。シンプルにお金のみでアビリティを解放する仕様に。また、装備できる数の上限もなくなり、かなり使いやすくなりました。
それに伴いクエストも削除され、やりこみ要素はスコアアタックに一本化。
スコアなんて興味ないな……と思うなかれ。『ガンヴォルト』シリーズのスコアアタックはかなり作りこまれており、特にアクション上級者ほどずぶずぶハマる内容になっています。
まず、敵にダメージを与えると“クードス”というコンボ値がたまります。
クードスはためるだけではスコアにならず、リトライマーカーに触れたりスペシャルスキルの発動といった清算行動をとることで、初めてスコアに換算されます。
クードスはなるべくたくさんためてから一気に清算した方がより多くのスコアが得られるのですが、途中で敵の攻撃を3回喰らうとクードスは清算されずに消滅してしまいます。カゲロウによる回避もここでは被弾扱い。また、規定タイム以内にクリアできなければ減点されてしまうので、スピードも求められます。
つまり、高スコアを目指すには「被弾せず、しかし素早く、クードスをたくさん稼いで一気に清算する」というシビアなアクションが求められます。
それもただクリアするのではなく、道中でボーナスを稼がなくてはいけません。
ボーナスポイントは、着地せずに連続で敵を倒すことで獲得できます。地形バウンドは“着地”に含まれないので、それを利用してうまく飛び続ける必要があります。
攻撃の回避と飛行状態維持の両立はかなりの精密操作が要求されますが、そこで改めて気づかされるのがレベルデザインの秀逸さ。
ステージにしろボスにしろ、運に左右される要素がほとんどなく、最初は苦戦したポイントも、繰り返し挑戦して一度慣れればスルリと越えられてしまう……でもやっぱり苦戦する、そんな楽しく難しい絶妙な調整は、まさしくインティ・クリエイツの職人芸。
クードス稼ぎの最中にプレイヤーが得るのは戦いのスリルだけでなく、ご褒美も与えられます。それはずばり、歌。クードスが1000を超えると、BGMがRoRoの歌に変化し、プレイヤーのテンションをさらに高めてくれます。
そしてステージ最後のボスはスペシャルスキルで倒すとさらに特大ボーナス!
被弾を許さない緊張感と、スタイリッシュに敵を蹴散らし、ステージを駆け抜ける爽快感と疾走感、ヒロインの歌をバックに戦う高揚感に、最後のボス戦を華麗な必殺技でフィニッシュしたときの達成感……この全ての感情を迸らせるスコアアタックこそ、『ガンヴォルト』シリーズの真髄です。一度ハマったら抜け出せません。
ストーリークリアでは物足りなかった猛者は一度手を出してみるといいでしょう。
初期設定のクードスモード“ティミッド”では3回の被弾でクードスが消滅しますが、「アクションは苦手だけど歌は聴きたい!」という人のために、何度被弾してもクードスが消えないモード“アパシー”や、逆にもっと歯応えを求める人のために一撃でクードスが消滅するモード“レックレス”も用意されており、細かいところまで気が利いています。
なお、アパシーはクードス1000以上で発動する強力な“ODアビリティ”も使いやすくなるので、攻略においても役立ちます。
本編シリーズから変わったポイントとしては、まず、テクニカルボーナス“ガードカウンター”の廃止。単純に敵をどんどん倒すだけでよくなったので、わかりやすく、そしてよりゲームテンポが向上しました。
クードスモードによる違いも、スコア換算倍率からクリア時の加点ボーナスポイントに変わり、アパシーでも高ランクを狙いやすくなりました。他にも壁蹴りでコンボが途切れなくなって遊びやすくなったり。
そして一番大きな違いがボーナスアイテムの追加。収集要素として各ステージに4つ隠されており、獲得するとクードスに大幅ボーナスが入るのでスコアアタックでも重要。中にはかなり意地悪な隠し方をしているものもありますが……根気よく色々試してコンプを目指しましょう!
総評
ライブノベルやクエストの撤廃、各種システムのシンプル化によって、本作は本編シリーズと比べスリムな内容になり、その分よりアクションを洗練させることに成功しています。
ライブノベルの廃止には寂しいという意見も多く寄せられていますが、全体的なテキスト量の削減が終盤のストーリー展開をより際立たせていると感じたので、個人的には本作はこれがベストだと思っています。
アキュラの爽快なアクションと、それを気持ちよく楽しませ、さらにプレイヤーに上達を実感させるステージ・ボスの設計はどれも素晴らしく、『ロックマンゼロ』を皮切りに2Dアクションを作り続けたインティ・クリエイツの到達点と言える完成度。
カゲロウや弱点武器、アビリティなどを駆使すればかなり難易度を下げられる一方、スコアアタックなどのやり込み要素も提供するという、『ガンヴォルト』シリーズの魅力である幅広い層へのアプローチも健在で、これこそまさに2DアクションのX<きょくげん>!
今までかなり多くの2Dアクションゲームを遊んできたつもりですが、その中から好きなものを一つ選べと言われたら自分は迷わず本作を選びます。
ストーリーを隅々まで味わい尽くしたいという方はともかく、基本的にはシリーズ未プレイで本作から始めても問題はありません。兎にも角にも本作のアクションを体感してほしいところ。オススメです! 強く!